第100回(2024年)箱根優勝を狙う中央は若林世代の穴を埋められるのか?

最初に

前から書きたかった内容なのですが…今年度の中央における最大のポイントは箱根で6,7,8,10区を走った若林世代が抜けた穴を埋められるかだと思っています。箱根で先頭と30秒差の往路2位で走った5人が全員残っているのですから今年度は往路優勝の有力候補となりますし、復路で前回以上の戦力を揃えられれば15回目の箱根優勝も見えてくるというのは至極当然な考えです。


まず私の立場としては中央に対しては中立です。では何故今回のような記事を書きたかったかというと…藤原監督と若林世代が好きなんですよね。中央のYouTubeはちらほら見ているのですが、特に藤原監督や若林世代が駅伝を振り返る回が良かったです。藤原監督の理路整然としていて分かりやすく聞き取りやすい話、若林世代もさすがは最上級生という話の上手さ、そして人柄の良さが感じられます。


結論としては、戦力ダウンを埋めるのは極めて大変だと思っているのですが、その理由について私の考えを述べていきます。埋められるはずという考えはもちろん分かります。往路の戦力ダウンを埋める方が復路よりも遥かに大変で、しかも今の中央はどんどん新戦力が台頭してきてメンバー争いも熾烈、総合力では前年度と互角以上か上でもおかしくないですからね。


実際、中澤と千守も「復路を自分たちくらい走れる選手は出てくるだろうし、僕らくらいの穴は軽く埋めてもらわないと困るよね」という趣旨の話をしていました。これを本人たちは当然本心で思っているでしょうし、後輩たちにそれだけ期待しているということでしょう。しかしこの世代の存在は中央において極めて大きかったと私は思っているのです。

6区(若林 陽大)

4年連続で箱根6区を担った若林、キャプテンとして走りでもチームを牽引しました。4年連続で走っているのですから、当然山下りを経験している選手は他にいません。4年時に区間2位、タイムも58分39秒でいずれも4年間で最も良い走りを見せました。ここで注目なのは他の6区経験者(早稲田の北村、創価の濱野、法政の武田、東海の川上、國學院の島崎)は5人いますが、全員が前回走ったタイムよりも悪かったということ。これは過去2回よりもコンディションが良くなかったと考えるのが自然でしょう。


そんな中で唯一タイムを上げてきたのが若林なんですよね。いかに若林の走りが際立っていたかが分かります。今年度優勝を狙うためには初めての箱根6区で4年連続で走った若林が最高の走りを見せた4年目の走りと互角か上回るような走りが求められます。何しろ優勝候補筆頭と目される駒澤大学には、その若林を抑えて区間賞を獲得した伊藤がいるのですから…


6区候補としては吉中、浦田、大澤らの名前が挙がりますし、いずれもトラックで好走を見せている選手ばかり、特に吉中は6本柱に次ぐ実力者として私も最も評価が高い選手です。箱根でも結果を残してくれると期待しています。吉中は6区を走るのであれば若林を超えるような走りを見せたいと話していましたが…


初の箱根で6区2位以内というのは6区を得意としていた中央でもずっと出来ていません。中央6区の象徴的存在でもある野村俊輔でさえ、初の6区は3位です(その後3年連続区間賞)その後は山下が2度目の箱根6区で区間2位、代田が初の箱根で6区3位で走っているくらい。そもそも吉中を6区に起用したら平地の選手層が薄くなってしまうと危惧しているのですが、そんな吉中をもってさえも埋めるのが大変であろう大きな穴、それが4年時の若林6区の快走なのです。

7区(千守 倫央)

1,2年時は箱根1区を走って区間16位→17位、3年時は故障や体調不良もあって姿を見せず…もう3大駅伝に出場することは正直無いと思っていましたが…そこから華麗すぎるほどの復活を遂げたのが千守です。4年時は出雲2区3位、全日本1区3位、箱根7区4位と3大駅伝全てで区間4位以内の大活躍、前年度にこれを達成したのは中央の大和、駒澤の田澤、青学の近藤という大エースに國學院の躍進を支えた藤本、そして千守と5人しかいません。


出雲、全日本と好走していた千守が補欠登録されていた箱根、往路が完璧な走りを見せて、復路も千守が7区に入ってきたらもう中央が逆転優勝するのでは?と駒澤ファンが震えていた中での7区当日変更…箱根でも復路で唯一駒澤を上回り、3秒差を縮めてきました。中央の躍進において復活した千守の存在というのは大きく、苦しい時を乗り越えた選手にしかない強さというのがあります。


中澤が7区で最初の定点で駒澤に離されている千守を見ながら「千守がやってくれる絶対、俺らの代のエースだから」というコメント、ものすごく好きなんです。チームのエースは誰もが認める吉居大和、そして中野翔太とのダブルエース、1学年下に注目がいくのは当然で、実際にこの世代も大和のファンで一緒に練習出来るのが嬉しいという話をしていました。それでも「俺たちの学年にもエースはいるぞ」という千守への信頼感、そして最上級生としてのプライドも感じられました。そんな期待に応える千守の走り、最高でした。


そんな千守の穴を埋められるのか?という話ですよね。少なくとも出雲で区間3位に入るような新戦力の台頭はありませんでした。トラックの強さを見ると吉中が埋めてくれるのでは?と期待してしまいますが、少なくとも出雲は出場さえしていなかったわけで、まだ3大駅伝は未経験ですからね。そもそも吉中が平地ならば今度は6区はどうする?という話になりますし、4年時の千守と競える選手は6本柱を除いて少なくとも現時点ではいなそうかなと。

8区(中澤 雄大)

復路をこの3年間支えてきたのが中澤、箱根での成績は7区5位→8区3位→8区7位となっています。2年時の箱根は往路で19位とまさかの結果に終わりましたが…そこから復路3位で走って総合12位まで順位を上げることとなりました。なかなか往路と復路で中央は噛み合わないなあ、往路がもったいなさ過ぎるなあと思うと同時に、逆に往路で戦えるようになれば一気に上位を狙えるのでは?と期待感も持たせる箱根でした。


復路になって流れを切ることが出来たとはいえ、往路19位から6区若林、7区中澤とともに区間5位で走った走力もメンタルも素晴らしかったです。3年時はシードが十分に狙える状況、7区で区間18位と苦しい走りになったところで頼りになるのが8区中澤、区間3位の快走で7→3位まで順位を上げました。中央が最後に復路で総合3位になったのは2010年の8区終了時まで遡りますからね。中央の復活を強烈に印象付ける走りでした。


4年時の箱根も2年連続で8区、終盤に足が攣ったことで最後に差を広げられたものの、前半は積極的な走りで差を詰めていきました。3年連続で復路を走ったという経験もかけがえのないものですが、3年時には全日本でエース区間の7区を任され、10→8位とシード圏内に押し上げた実績もあります。エースが揃う7区で決してエースでは無いけれど長い距離に強い中澤の安心感のある走り、8区手島に繋いで歓喜のシード獲得となりました。


5度走った3大駅伝で区間9位以下が無い、2度走った箱根予選はいずれも60位以内、失敗レースが1度も無い圧倒的な安定感でチームを支えた中澤の穴を埋められる選手っているのでしょうか?走っている区間は違えど、6本柱であっても3大駅伝全てで区間8位以内で走っているのは溜池だけですからね。

10区(助川 拓海)

4人の中で3大駅伝の経験は最も少なく、最後の箱根を走るまでは3年の全日本で4区13位で走った実績があるのみです。全日本予選、箱根予選も出場した3年時に比べると4年時は出雲・全日本ともにエントリーされずに最後の箱根も出場は厳しいかと思っていましたが…箱根16人に入るためには結果がとにかく求められた上尾ハーフで62分36秒の自己ベストを叩き出して、16人のメンバー入りをまず勝ち取りました。


チームとしては箱根1~9区を走る選手は故障や不調などが無ければある程度決まっていたため、現実的に出場するチャンス残るのは10区のみということに。このたった1枠を巡って助川以外にも田井野、山平、白川らが激しい争いを繰り広げることになり、助川が勝ち取りました。勝ち取っただけではなく、最初で最後の箱根ではひたすらに前を追っていき区間3位の快走を見せることに。


就活などの影響もあって4年時は出遅れていたという話でしたが、上尾ハーフで結果を残せなかったら、メンバー入り後の大事なポイント練習を外してしまったら、きっとたどり着けなかったであろう最初で最後の夢舞台、その細い糸をつかみ取り、さらに区間3位で走る圧倒的な勝負強さが凄すぎます。助川の穴を埋めるとして期待されるのはまさにその1枠を争った山平、白川らになるのでしょうが…


少なくとも前回の箱根10区争いで助川の方が上だったのは事実です。山平はレガシーハーフでも快走を見せていて、むしろ10区の出場争いではなく、7,8区で出場して欲しいという選手になってくるでしょうが…復路出場をめぐる争いが前回と同じかそれ以上のハイレベルさを保てるのか?という話になってきますからね。

最後に

3年生以下にエースが揃い、4年生はどちらかというと縁の下の力持ちという存在だったチームが箱根を制した翌年度は苦戦しているというのもあります。パッと思いつくのは、2011年の早稲田と2013年の日体大。3冠を狙った早稲田は佐々木、志方を欠く苦しい状況ながら猪俣、高野、北爪、中島という4年生の活躍で3連覇を狙った東洋を抑えて優勝を勝ち取りました。


2013年の日体大は前年度の箱根で19位でしたが…3年に服部、本田、矢野の3本柱を擁していて、往路優勝、復路は高田、高柳、谷永の4年生トリオが揃って区間2位の快走でこれまた連覇を狙った東洋を抑えて優勝を果たしました。ただ、本来であれば戦力的にピークを迎えるであろう翌年度、2012年の早稲田は4位、2014年の日体大は3位で離されて優勝争いに絡むことすら出来ていません。


中央は2023年の箱根で優勝は出来ていませんが、チーム状況としてはかなり似ています。1,3年が中心のチームが箱根で好結果、2,4年が中心となる箱根はさらなる活躍が期待されるのですが…早稲田や日体大は4年生の穴を埋めることは出来ず、主力たちも「全員が前回のような走りを見せる」ことは出来ませんでした。中央はどうなるでしょうか?


若林世代は本当に酸いも甘いも知る世代で1年時には箱根予選で10位と最下位通過、11位の麗澤とはわずか26秒差で箱根予選落ちしていてもおかしくなかった。そこから4年時には箱根で最後まで優勝を争っての総合2位、3位に5分半もの大差をつけるチームに飛躍を遂げることに。4人で箱根は延べ11度の出場を経験しています。6本柱以外で箱根に出場したのは2年時の居田のみ、箱根やその後のレースを見る限り最後の箱根出場は困難でしょう。


実質、箱根に出場したことのない選手が4人走るであろう状況で経験豊富な世代が抜けた穴を埋める必要があるわけです。4年の伊東大、大澤、3年の山平、浦田、東海林、2年の吉中、白川、伊東夢、1年の柴田、本間、山崎など、学年によらず面白いように自己ベストを更新する選手が現れ、新戦力が台頭してきている中央にとってもそれは決して簡単なことでは無いでしょう。個人的には特に吉中、山平、浦田、白川、山崎あたりに期待していますが、確実に10人に入ってくる選手、復路を区間5位以内で走れそうとなるとなかなか…ルーキーも藤原監督が1年目からの活躍は難しいかもという話をしていましたし。


穴を埋められるかというよりも、いかに若林世代の箱根での活躍が凄かったのかを語る内容になってしまいましたが…それだけ魅力的な学年だったんですよね。とはいえ、超えるのは前回の中央ではなく箱根に出場する22校全てです。出雲で中央を上回った駒澤、創価、城西、國學院、青学、早稲田らがライバルとなってくるでしょう。チームを支えてきた先輩たちの想いを胸に箱根優勝へ挑んで欲しいです。

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