黄金世代の光と影 その2 ~青山学院大学~
青学の4年生世代は全大学の4年生で最もスカウトに成功しました。確かにインターハイや都大路で圧倒的な成績を残すエースはいませんでしたが、ロードに強い実力者が恐ろしいほどに揃っていました。実際に雑誌での評価でもNo.1でしたし、私もそう思っていました。ただ、スーパーエースがいない学年というのは、チームの選手層を厚くするはあっても黄金世代にはなりづらいのですが…そこから最初にエースとなったのが岸本です。
1年目から出雲2区区間賞、全日本2区5位、そして圧巻は箱根、エース区間の2区で67分3秒をマークして優勝に大きく貢献、青学はルーキーを箱根に起用すること自体が少ない大学であり、ましてエース区間の2区に起用することはこれまで一度もありませんでした。1年にしてチームのエースになった岸本に追いつけ追い越せと一気にこの学年が力をつけていくことに。
岸本が2年時は故障で丸々記録会にさえ出場せずにチームも全日本、箱根が4位と苦しい状況、そこで今度は近藤がエースとして台頭、岸本も復活した3年時は2年ぶりの箱根制覇を果たしました。この学年の持ちタイムは凄まじく、5千で13分台が9人、1万で28分台が10人、ハーフで62分台が7人、ちなみにこのハーフ62分台の中にはダブルエースである近藤も岸本も含まれていません。ただ、箱根だけを見れば2年時は3人、3年時に4人と徐々に人数は増えていったものの、圧倒的な存在感ではありませんでした。
その状況が大きく変わったのが4年時です。そのきっかけが何だったのか?3年時の箱根で一つ気になったことがあったのですが、その気になりについて岸本が触れていたことで一番の原因なのでは?と思い始めました。「3年時の箱根でルーキーの田中を起用しなかったこと」です。世田谷ハーフで駒澤の唐澤や先輩の中倉を抑えて優勝、それでも箱根には出場出来なかった…これは他の16人や10人を争う選手にとって大きかったのではないか。
世田谷ハーフであれだけの走りを見せた田中でも、体調不良明けながらも駅伝男である佐藤の方が優先される状況、実際に8区2位で走っていますし、おそらく優勝だけを見据えればこの判断は正しかったのでしょうが「4年生に割って入るのは佐藤や驚異的な駅伝力を持つ太田、上りを全く苦にしない若林レベルで無ければ無理、主力級で無い自分は4年生が卒業した後が本当の勝負」と中堅どころが思ってしまった可能性があるわけです。
圧倒的な強さで優勝した3年時の箱根後、4年生や監督から4年生の強さを示す言葉が何度も聞こえてきました。「箱根は4年生が10区間全てを走ってもおかしくない」、「箱根エントリーメンバーに4年生13人が全員入るかもしれない」、これらは3年生以下の奮起を促す意図も当然あったでしょうが、それだけ4年生の存在感が増していることも意味しています。
もちろん、目片や横田が4年生になって主力となったり、関口、西久保らがハーフで結果を残したり、脇田、西川が山候補となってきたなど4年生が揃って成長してきたことも大きな要因です。それでも、3年時に比べると4年時は4年生以外の躍進が明らかに少なかった。明確に台頭してきたのは、1年時故障していた2年の鶴川くらいです。その鶴川も都大路1区区間賞の実力者ですから、台頭というよりは復活したと言うのが正しい。
そんな中、4年時の駅伝シーズンになると鶴川が故障して3大駅伝に出場出来ず、佐藤が出雲を欠場、さらに太田、若林と前回の箱根で優勝の立役者となった2人を出雲、全日本と欠くことに。出雲では4人出場した4年生(目片、横田、近藤、中村)がいずれも区間3,4位でまとめたのに対し、3年の志貴、2年の田中はいずれも区間6位、特に4区6位の志貴は大きく上位と離されて優勝争いから脱落しました。その後も調子が上がらずに全日本、箱根は出場出来ていません。
全日本になると、ついに8区間中6区間を4年生(目片、横田、岸本、中村、近藤、宮坂)が占めることに。これは私が黄金世代に依存していると判断している条件です。佐藤は3区で区間2位と実力通りの走りでしたが…唯一2年生以下で入った2区の白石はまさかの区間16位、3区以降の駒澤の強さを考えると、実質ここで優勝争いから脱落してしまいました。4年生を6人起用しながらも4位と1秒差の3位というのは、厳しい結果となりました。
箱根では16人中9人が4年生、主力の故障や不調、さらに5区に若林を起用出来なかったこともあり、10区間中7区間を4年生(目片、近藤、横田、脇田、西川、岸本、中倉)が占めることとなりました。しかも5区、6区を担った4年生コンビで駒澤にも中央にも7分離されてしまい、優勝争いから脱落することに。9区岸本の快走で総合3位に入ったのは青学の意地を感じましたが、黄金世代が4年生となって3冠も狙えると思われた青学が、4年生を多く起用しながら他大学に3冠を許すことになるとは、1年前には思いもよらぬ結果でした。
ここで気になるのは、青学は黄金世代となった4年生、最後の全日本、箱根で依存した学年が卒業したことで、卒業後に苦しんだ明治や東海のように優勝争いから脱落してしまうのかということです。3大駅伝の経験値ではこれまでに無いほど下がっています。
3大駅伝経験者は7人いますが、3大駅伝で区間賞を獲得しているのは佐藤のみ、区間3位以内だと太田、若林がおり、区間5位以内だと志貴、田中がいます。結果を残している選手はいますが、優勝を狙う大学という観点からすると正直物足りません。そんな中でも青学の強さを維持する可能性があるのが2年生の存在です。
本来、黄金世代の2学年下は戦力的に厳しくなるという予測だったのですが…都大路1区で区間賞の鶴川、3位の若林、8位の喜多村、10位の太田とトップ10に入った選手が4人も加入、さらに野村、田中らもいるこの学年こそ黄金世代なのでは?と思わせる最高のスカウトとなりました。これは青学の強さ・人気はもちろん、4年生世代が下級生の時にそこまで存在感を示していなかったのも影響しているのでは。実際に来年度の戦力を見てみると、優勝してもおかしくないような区間配置が組めるんですよね。
例えば1区は5位で走った経験のある志貴、2区は来年度のエースとなる太田、3区に怪我さえなければエース級の鶴川、4区に1年時に走っている佐藤、5区は黒田が有力候補として名前が挙がっていて、往路は揃います(若林は今回の箱根と監督のコメントを見るに今後は第一候補にはならない気がします)
復路も6区の第一候補と言われ、走力のある野村、奥球磨ハーフで好走した荒巻を7区、上りに強い若林を8区、ハイテクハーフで好走した塩出を9区、箱根8区を走った田中を10区とすれば、正直全く穴の無い10区間で優勝してもおかしくないのでは?と思わせるほどの戦力なんですよね。ただ、選手層が今年度と比べて落ちる可能性は高く、このオーダーには様々な前提条件がつきます。
志貴が最低でも2年時の強さを取り戻すこと、鶴川が2年連続3大駅伝欠場から復活すること、今回は故障した黒田、野村がともに故障なく箱根に臨めること、荒巻、塩出とハーフの大会で好走した新2年生が初の箱根で力を発揮すること。今年度の箱根に出場したのは太田、佐藤、田中の3人だけですから、来年度まず10人がビシッと揃うのか、16人の選手層の厚さは?故障や不調などがあった場合に耐えられるのかという不安は残ります。これまでの青学は圧倒的な選手層を武器に箱根を制してきましたからね。
もう1つ気になるのは…実は黄金世代は現2年生であり、その2学年下のスカウトが苦戦しているのでは?ということです。もちろん、来年度の新入生も非常に楽しみな選手が揃うのですが…チームのエース級が少ないんですよね。この数年で青学に加入している高校、いわゆるパイプの太い高校から多く選手が来ますが…洛南の西澤、世羅の中村、九州学院の村上、八千代松陰の池澤と現1~3年にエースがいる高校も長距離区間を走るような選手が加入していないので、2年生に選手が揃いすぎた影響もあるのかなあと。
箱根初優勝から2年連続で箱根優勝を逃していない青山学院大学がいきなり弱くなるとは私には考えられないですし、来年度も箱根を迎えるころには優勝候補の一角として名を連ねている可能性は十分あります。箱根優勝したとしても驚きはありません。ただ、今年度の青学が黄金世代となった4年生に依存したチームとなっていたのは事実です。今後も優勝争いに加わり続けるのか、それとも優勝争いから脱落してしまうのか、来年度のチーム成績は青学の命運を左右するほどに大事なものとなっていきそうです。