駒澤3冠への軌跡 その5 ~3冠達成へ②~

全日本後~箱根前

全日本終了後、駒澤が箱根も有利という見方が多かったが、個人的にはまだ青学の方が強いと感じていた。箱根への調整力、長い距離の強さ、選手層のいずれも青学は圧倒的で、優勝メンバーが多く残る経験値もあるのだから。ただ、トラックシーズンとは異なり、そんな不安を徐々に解消していく走りを全日本後に見せていくこととなる。


世田谷ハーフでは吉本、伊藤が好走して箱根16人入りをほぼ確実にし、出場してもおかしくない結果を残した。そして圧巻だったのは上尾ハーフ、日本人学生トップの円、2位の赤星、さらに安原、青柿、赤津と62分台で続き長い距離への対応が順調に進んでいることを証明した。激坂王では宮城が3位の快走、赤津や宮城が箱根16人にエントリー出来なかったことで、選手層や山への対策が進んでいることを証明する形となった。

箱根往路

そして迎えた箱根、1区の円が区間2位の快走、トップと9秒差で青学に11秒差をつけたのも良かったし、富田のスパートに唯一反応する見事な走りだった。来年度に向けては1年生の活躍が大きかったが、今年度のチームにおいて最も大きかったのは円の躍進だったのでは。3大駅伝に出場する4年生が2人か3人かは大きな差がある。全日本、箱根と大事な1区での好スタートが優勝へ繋がった。


2区の田澤はコロナの影響があったものの66分34秒で区間3位、このタイム・順位で走ってしまう田澤はさすがの一言。中央の大和、青学の近藤との先頭争いは非常に見ごたえがある今大会のハイライトの一つだった。田澤が2区にいることの安心感というのをこの3年間感じ続けていたし、来年度からはいなくなることの喪失感も大きい。


3区の篠原はずっと青学の横田に喰らいつき、残り3kmで抜け出すこれまた完璧な走りで区間2位、前回の3区で大差をつけられた青学相手に逆にリードを奪う展開に持ち込んだ。別のレース展開も選択出来たと思うが、最大のライバルである青学とのタイム差を最も広げることが出来る走りだったのでは。


4区の芽吹は区間3位という走りも青学の太田と最後まで競り合って1秒上回ってタスキを渡す走りは素晴らしかったし、4区の先頭争いも非常に面白かった。2区も4区も駒澤が追いつかれる展開は苦しかったが、太田が凄すぎた。。。しかしここで1秒リードして渡したことで青学の後ろについていくという選択肢が無くなったのも大きかったし、結果として最後の首位交代ということに。


5区の山川が得意な上りで中央の阿部に差を詰められ、苦手なはずの下りで広げる走りは想定外だったが、39秒差が一時15秒差まで縮まったところから、再び下りで30秒差に広げたのは本当に大きかった。15秒差になったときには正直逆転されることも覚悟していた。往路優勝はもう19年もしておらず、主将の山野も往路、復路、総合を全部取りたいという話もしていたので、この価値もひときわ大きかったのでは。

箱根復路

2位の中央と30秒差、3位の青学と2分3秒差というのはどちらも決して安心できるタイム差では無かったが、当日変更を見た時は正直厳しいと思ってしまった。中央は7区に千守というまさに理想的なオーダーを組み、青学の佐藤→田中→岸本→中倉という7~10区は何分リードがあっても安心出来ない恐怖の布陣だった。その一方で駒澤は花尾、圭汰を起用出来ないという苦しい状況、当日変更を見たとき、上位3校の中で最も優勝確率が低いのは駒澤だと思ってしまった。


しかし、6区で状況が大きく変動する。青学がまさかの区間最下位、この区間だけで5分差をつけられて優勝争いから脱落、青学ほどの選手層をもってしてもこんな状況が起きてしまうほどに山の恐ろしさを知ることに…一方で伊藤は区間賞の快走、復路の5区間で比較した場合、最も6区が中央に対して分が悪いと思っていただけに、まさに殊勲の走りだった。駒澤のMVPは誰か?と問われれば迷うことなく伊藤の名前を挙げる、それほどに6区で差を30→47秒に広げられたことは大きかった。


優勝争いの相手が中央に絞られた7区も正直中央の方が有利な区間かと怯えていた。今年度の千守は絶好調、安原はどうしても前回の3区の悪夢が頭をよぎってしまう…前半に差を広げ、後半に差を縮められ始めた時には一気に差が縮まってしまうかと奮えたが、区間5位でわずか3秒縮められるだけに留まったことで、優勝に近づくことに。もちろん、まだまだ安心出来ない状況ではあるが…


8区の赤星は最初はやや差を広げたものの、その後は差を縮められる状況、この区間のハイライトはラスト3km、ここだけで25秒もの差をつけ、中央との差は1分5秒、今回の箱根で初めて1分以上のリードを得ることに。区間4位という順位も素晴らしかったが、ラスト差を広げられたのが大きく、前回の8区で走れなかった悔しさ、芽吹が故障して区間18位だった悔しさの両方を晴らしてくれた。


9区の山野は前半を突っ込んで、最初の定点で中央との差を1分31秒を広げることに。これはまさに2年前に山野が創価の石津に対してやられた走り、追う側にとって序盤に差を広げられるのは苦しい展開となる、まして終盤の9区となれば。その後はほぼ差を広げられなかったが、詰められることもなく区間3位の走りで9区終了時に1分33秒の差を残して10区に繋ぐことに。


10区で1分33秒差というのはかなり安心感があった。前回、青柿は区間6位だったが圧倒的区間新だった青学とは1分54秒差つけられており、同じような走りで無い限りは逆転されない。序盤に滑ったとい情報には焦ったが最初の定点で差を詰められなかったことでほぼ確信に…終盤に順大の西澤に逆転されて区間賞を獲得出来なかったのはやや残念だったが、区間2位の快走で優勝のゴールテープを切った。区間賞は1つだが10区間全てで区間5位以内という1区間も外すことのない最高のレースだった。

最後に

1998年に初めて3冠に王手をかけてから25年、2013年に窪田、謙太、中村らを擁しても達成出来なかった偉業、8度の2冠、3大駅伝最多勝利を誇りながら、どうしても届かなかった3冠をついに手にすることに!!大八木監督に唯一足りなかったと言ってよい3冠を勇退を決めていた最後の年に獲得するというのは、あまりにも出来すぎている。チームにとっての悲願が成就した瞬間だった。


箱根を12年勝てなかった、初優勝から3年連続で勝てなかったことも無かったのに。3大駅伝を5年間勝てなかった、同じく3年間勝てなかったことも無かったのに。3冠どころか3大駅伝優勝さえ、次はいつ達成出来るのだろうと不安だった中での2020年度の2冠、そして2022年度の3冠。この偉業を噛みしめていたいけれど、もう来年度の駅伝に向けて勝負は始まっている。


3年生以下は2年連続の3冠を目標に掲げているが、3冠を遥かにしのぐ難易度であり、2年連続どころか2度目の3冠さえ達成した大学は存在しない。今年度と同じような高いモチベで臨めるのか、同じような戦力・選手層を構築出来るのかというのは不安も大きい。他大学も中央を筆頭に3大駅伝優勝を狙う大学が揃うし、正直達成できる可能性は極めて低いだろう。それでも、来年度のチームに期待せずにはいられないし、ファンとしては変わらずに応援し続けたい。


3冠達成、本当におめでとうございます!!